18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~


 夏休みのあいだ、数学の補講を受けながら、伊吹は目の前のいろはのうしろ姿を何度も見ていた。


 社会人と付き合っている。

 そのことを思い出すたびにイライラした。

 それでも、伊吹にはこの気持ちを彼女に伝える勇気はなかった。


 そして、とある日の帰りのことだ。

 伊吹はグラウンド沿いを歩いていると、サッカー部の練習風景が目に入った。

 部内のトラブルで辞めたのは伊吹と他数人。

 肝心なトラブルの元凶はまだ残っていた。


 これも、どうでもいい。

 サッカーは好きだったが、それ以外のことで煩わしい思いをした。

 あれ以来、人と深く関わらないようにしている。


「伊吹くん!」

 背後からいろはの声がして、伊吹はどきりとしたが、それと同時に顔面に衝撃を受けた。

 その拍子に彼はよろけてつまずき、地面に尻もちをついた。


「いって……」

 視界にボールが転がっているのが見える。


「ああー、すいませーん。先輩!」

 よく知った後輩の声が聞こえて、苛立ちがつのり、怒鳴りつけてやりたい気持ちになった。

 しかし、いつの間にか目の前にいろはがいて、彼はそちらに気をとられてしまった。


「伊吹くん、血が……」

 いろはが心配そうに声をかけてくる。

 伊吹は猛烈に恥ずかしくなってますます腹が立った。


 こんな格好悪いところを見られてしまった。

 あいつらを許せない。


「あいつら、思いっきりやりやがった」

 なんとか立ち上がり、転がるボールを力いっぱい蹴り上げると、ボールは部員たちのいる場所より遥か遠くへと飛んでいった。


「バカにしやがって」