18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~


 伊吹は呆れ顔でそれを拾ってテーブルに置いた。

 社員証には『若葉朝陽』と名前が記してあり、今とはまるで別人のような顔つきの写真が載っていた。


「あたし、諦めない! 小説では令嬢の婚約者は悪役で平凡なOLが主役と決まっているのよ」

「いや、現実を見ろよ」


 ぎゃーぎゃー騒ぐ朝陽の相手はいい加減疲れる、と伊吹は半分飲んだコーラを手にしてさっさと自分の部屋へ戻った。

 2次元など興味はないが、やっぱり社会人よりも同じ年頃の異性だよな、と伊吹は思った。


 あまりにも彼女への想いが強すぎたのか、伊吹にとっての大きなチャンスが訪れることになった。

 なんと、夏休みに想い人と学校で会えることになったのだ。そして、前の席という幸運。


「おはよう、伊吹くん」

「ああ」

 それでも伊吹は素直になることができなかった。

 目の前の彼女を見てふと思う。


 そういえば、彼女もお嬢さまの部類に入るのだろうか。

 しかし、朝陽の言う悪役とは到底思えない。


「……どうでもいい」

 うっかり、ぼそりと声に出してしまった。

 今のを前の席の彼女に聞こえていないか不安に思ったが、気にしても仕方がないと思った。