「失恋ごときで情けねぇの。大人だろ? しっかりしろよ」
伊吹はイライラしてつい八つ当たりぎみに言った。
すると朝陽は睨むように伊吹を見て言った。
「あんたにはわかんないわよ。本気で誰かを好きになったことないでしょ?」
「はあ? そん……」
そんなことはない。好きな子はいる。
もう1年以上想い続けている子がいる。
ということを伊吹は心の中で叫んで口には出さず、朝陽をただ睨んだ。
「何よ。何か言いなさいよ」
「くっだらね」
「くだらないって何? あたしは本気で好きだったのよ。だけど……告白する前に失恋しちゃったー」
「彼氏じゃねえのかよ」
朝陽はビールをぐいっと飲むと、はあーっと深いため息をついて遠くを見つめた。
「とっても素敵な人なの。入社したとき研修でお世話になって、それから彼の部下として頑張ってきたつもりなのよ」
「社内恋愛かよ」
伊吹は朝陽のとなりで封の開いたポテトチップスをつまんで食べる。
「この前だってね、仕事のことを褒めてくれたのよ。彼は普段あまり人を褒めるタイプじゃないの。クールっていうか、人を寄せつけない感じで、だけどあたしには笑顔で褒めてくれるの。それって脈ありだと思うじゃない?」
酔った目でじっと見てくる朝陽に向かって伊吹は半眼で見つめた。
