結婚することは決まっているのに、彼はきちんとプロポーズをしてくれた。

 そのことが私の不安な心をあたたかく包み込んでくれた気がした。


 本当に、誠実な人なんだなあって思う。


「はい。私では、あなたのお役に立てるかわからないのですが、あなたにふさわしい妻になれるよう、努力します」


 緊張のあまり、たどたどしい口調になってしまった。

 すると、遥さんは口もとを手で押さえて笑いを堪えるような仕草をした。


「かわいいなあ、本当に」


 恥ずかしくて頬が熱くなる。

 遥さんは穏やかに笑って話す。


「無理しなくていいよ。結婚すると言っても君に家事を押しつけたりしないから、そこは安心して」


 そんなふうに言ってくれるなんて、彼は本当に優しい。

 だけど、やっぱり奥さんらしいことがしたいと思ってしまう。


「無理はしません。だけど、頑張ります」

「うん」


 彼は微笑んで、すーっと手を伸ばしてきた。

 その手が私の頬に触れて、思わずびくっと肩が揺れた。

 ドキドキして、少し不安で、私は彼を見つめたまま膝に置いた両手を組んでぎゅっと握った。


 彼の手が私の髪に触れて、その指先の感触に、体がぞくっと震えた。


 何もしないって言ったのに。

 何をするんだろう?