それから彼女のことをこっそり他人から聞き出し、どうやら『推しを愛でる会』という妙な部活に入っていることを知った。
その部長が同じクラスの青葉小春だったことは少々面倒だなと思った。
「へえ、香取くんがうちの部に入りたいなんて意外~」
伊吹が入部希望を伝えに部室へ行くと、小春が首を傾げながら言った。
「でもね、うちの部に入るには当たり前だけど熱烈に支持してる推しが必要なのよ。あんた、推しはいるの?」
めんどくせぇな、と伊吹は思った。
部室の中央には机がいくつか並べられて広いテーブルの状態になっている。
そこに、座ってイラストを描いている彼女を見つけた。
俺の推しはそこの女だよ、とは当然言えなかった。
「推しはいるけど、言わないと駄目なわけ? こっそり愛でるならいいだろ?」
苦しい言いわけかと思ったが、小春は意外とすんなり受け入れてくれた。
「秘密の恋ってわけね。いいわよ。じゃあ、みんなに紹介するわ」
小春が部員に紹介をすると、伊吹は軽く会釈をした。
小春は伊吹のことを「いぶっきーと呼ぶわ」と勝手に言った。
伊吹は少々イラっとしたが、それなら自分も小春を呼び捨てにしてやろうと思った。
そして、部員たちへの紹介が終わったあと、いろはが近くにやって来て笑顔で言った。
「この前はありがとう、伊吹くん」
伊吹は緊張のあまり、思考停止し、思いっきり顔を背けてしまった。
それが最初に彼女へ与えた誤解だった。
