「面倒だし、関わらないのが一番いい。はあ……疲れたから寝てっていい?」
伊吹くんは不貞腐れた表情で長門先生に訊ねた。
「いいけど。その前に言うことがあるんじゃない?」
長門先生はそう言って私にちらりと視線を向けた。
どきりとして思わず視線をそらしてしまった。
「あーその……秋月、ありがとう」
「え? ううん、酷くならなくてよかった」
伊吹くんにお礼を言われて、なんだかくすぐったい気持ちになった。
だけど、嬉しい。
「それじゃあ、私は帰るね。伊吹くん、気をつけて」
そう言って、一応長門先生にあまり目を合わせないように会釈をして、保健室を出ていこうとした。
「秋月!」
「え?」
振り返ると伊吹くんが真剣な表情でこちらを見ていた。
「西門から帰れよ。あいつらに見つからないように」
「え……」
「いや、さっき俺と関わったから。まあ、何かされるとは思わねえけど」
伊吹くんが私のことを心配してくれている。これって夢じゃないのかな。
「ありがとう。でも、きっと大丈夫だよ」
そう言うと、笑顔の長門先生と目が合った。
そして彼は思わぬことを口にした。
「そうだね。さっきの今だし、心配だから僕が西門まで彼女を送ってあげよう。君は寝ていなさい」
驚いて絶句した。
伊吹くんは「じゃあ」と言ってさっさとベッドに這い上がってしまった。
長門先生は私に近づいて、それから満面の笑みで言った。
「じゃあ、行こうか。秋月さん」
「……はい」
一緒にいたくない人とふたりきりとか、嫌だなあ……。
