「あははは。これはまた、見事にやられたね」
保健室に行くと伊吹くんの状態を見た長門先生は笑いながらそう言った。
怪我をしている人に対して笑うなんて、嫌な人だなあと思う。
「ほら、そこに座って。消毒するから」
長門先生は椅子に指を指しながら棚から救急箱を取り出した。
私はとりあえず、彼らと少し離れたところに立っている。
「ムカつく」
と伊吹くんが吐き捨てるように言った。
「君が我慢してるから」
と長門先生が答える。
長門先生は傷の消毒をしたあと、ガーゼを当ててテープで固定した。
それから、救急箱を片付けながら静かに告げる。
「顧問に言うか?」
「いい。どうせ、誤魔化される。面倒事は無視する人だし」
「教師も人間だしね。じゃあ、あいつらにやり返してやる?」
「それも面倒」
伊吹くんはため息まじりに言った。
長門先生は棚に救急箱を収めて、それからこちらを振り返り、口もとに笑みを浮かべながら言った。
「僕なら、やられたことはきっちり返すけどね。二度と僕に近づけないように」
長門先生の表情は笑っているのに、その向こうに冷淡な感情が見え隠れしている。
なぜだか、ぞくりと背筋が震えた。
