電話の向こうに聞こえる雑音の中で、かすかに遥さんを呼びかける女性の声が聞こえてどきりとした。
『ああ、すぐ戻る』
遥さんは私に話していた声よりもずっと、穏やかで優しくそう言った。
きっと相手に対しての返答だろうけど。
胸の奥が痛くて、もやっとした。
「遥さん、あの……」
『ごめんね。そろそろ行かないと』
「うん……」
我ながらひどく弱々しい声が出た。
そうしたら、遥さんはクスッと笑った。
『寂しいのか? 戻ってきたい? それとも俺がそっちに行こうか?』
「そんなことないよ。もう子供じゃないんだから」
『そうか、それはよかった。じゃあ、しっかり勉強して成績を上げるんだよ』
「そんなこと、言われなくてもわかってるよ!」
ああ、どうしてこんなに可愛げのない言葉が出てくるんだろう。
『じゃあ、ほどほどにね。おやすみ』
彼は最後はとても優しい声でそう言ってくれた。
「うん。遥さんも気をつけて。おやすみなさい」
電話を切ったあと、ベッドに倒れるように転がった。
スマホを握ったまま、すでに待ち受けになっている画面を見て、ため息をつく。
どくんどくんどくん、と鼓動が小刻みに鳴る音が、ひどく耳障りに感じる。
何だろう、この気持ち。
胸の奥がぎゅっとして、痛くて、苦しい。
これは翔真を思う気持ちとは明らかに違う。
「どうしよう……会いたいよ……」
自分から離れておいて、私はなんて情けないのだろうと思った。
