なぜ、こんなにそわそわするのだろう。
遥さんと距離を置いて冷静に自分のことを見つめ直すつもりだったのに、いつも気がつくと私は彼のことばかり考えている。
こんなんじゃ、別居した意味がないよ……。
ため息をつきながらスマホをぼんやり見ていると、突然着信音が鳴って慌てた。
しかも、表示されたのは遥さんの名前だ。
「うそっ!」
急いで電話に出ようとして通話ボタンを押した瞬間、私の手からスマホが滑ってガンっと派手な音をさせて床に転がった。
「わっ……」
すぐに拾い上げて、通話中であることを確認し、慌てて電話に出た。
「遥さん!」
『すごい音がしたんだけど、耳がちぎれるかと思った』
「ごめんなさい! 落としちゃって……」
『何をそんなに慌てていたの?』
「えっ……!」
どきりとして声を上げると彼は電話の向こうで笑った。
『そんなに俺の声が聞きたかった?』
核心を突かれて、ついムキになってしまった。
「そんなことないよ! 今、勉強してたんだから」
『そっか、邪魔したね。じゃあね』
「ああっ、待って!」
うっかり呼び止めてしまった。
だけど、話したいと思っているのに何を話せばいいか思いつかない。
少しのあいだ話すべきことを考えていると、妙に雑音とか人の話し声なんかが聞こえてきて不思議に思った。
「遥さん、もしかして外にいるの?」
『ああ、どうしても参加しないといけない飲みがあって』
「えっ、ごめんなさい。私が電話したからだよね?」
『いいよ。君のほうが大事』
さらりとそんなことを言われて、きっとまたからかっているんだと思った。
けれど、なぜだか、震えてしまうくらい、嬉しい。
