「自分のことは自分でやるから、ご心配なく!」
見栄を張ってそんなことを言ってしまった。
すると遥さんは電話の向こうで明らかにバカにしたように笑った。
『そうか。余計なお世話だったね。次の試験は重要だろうから夏休みは本気で勉強しないとね。優秀な家庭教師でもつけてもらえばいいよ』
なんだか、腹が立つ。
ここで泣きつくようなことをしたら遥さんの思いどおりになりそうな気がする。
「私はひとりで頑張れるから。遥さんは自分ことを心配して。妻に逃げられている身なんだから」
ちょっと意地悪なことを言っちゃったかなと思ったけど、彼はまったく動じることはなかった。
むしろ、いつもの淡々とした声で返事をした。
『逃げられてはいない。実家が恋しくなった妻を両親のもとへ一時的に戻してあげただけ』
な、なんというプラス思考。
いや、都合のいいセリフ!
ますます腹が立ってきた。
「わたし、遥さんがしてきたこと、まだ許せないんだから」
『安心して。失敗しても俺が養ってあげるから』
なんとスルーされたよ!
「わたし、ちゃんと生きていける力をつけるの。あなたに甘えたりしないから」
『そうか、それは楽しみだ。ぜひ、俺が驚くほどの成長ぶりを見せてくれ』
「あっと言わせてやるから! じゃあ、勉強するから電話切るよ」
『ああ、おやすみ』
最後のほうは勢いで発言して、電話を終えたあと、ふと思った。
あれ……?
なんだかこれじゃあ、まるで遥さんのために頑張ってるみたい。
