とんでもない中学生がいたものだと思った。

 この子は大人になったらどうなるのだろうと、響子は心底不安になった。

 だからこそ、彼女はいつも遥の動向を見守った。


 遥が家にいるときはなるべく彼と話す機会を持つようにした。

 そうしていると、いつだったか遥に笑われたのだった。


「加賀は過保護だなあ。そんなに監視しなくても悪いコトはしないよ」

「そんな……監視のつもりでは……」

 響子が言葉を詰まらせると遥は声を出して笑った。


「正直な人だね。きっと、いい人たちに恵まれてきたんだね」

「え……しかし、坊ちゃんもそうではないですか? 旦那さまも奥さまもあんなに優しく……」

 話している途中で遥の声に遮られる。


「加賀!」

 少し強い口調だった。

 遥は真顔で響子を見据え、それから低い声で忠告をした。


「余計なことは言わなくていいから、俺の世話だけしておけばいい」


 響子は表情を強張らせながら「かしこまりました」と深く頭を下げた。

 すると、遥はまた穏やかに微笑んで「よろしくね」と言った。

 あまりの変わり身の早さに、頭が混乱した。


 響子は独身で子供もいない。

 しかし、甥っ子が中学生の頃はもっと無邪気な子だったように思える。

 それを見てきたからこそ、遥がとても異質な存在に思えてならなかった。


 しかし、彼のことが怖いというよりも、なんだか寂しげに思えて、響子は胸が苦しかった。