帰り際に加賀さんに言われた。

 彼女は玄関先で「失礼します」と言って私に背中を向けたのに、再度振り返って告げたのだ。


「坊ちゃんはいろはさんのことをとても大切に思っていらっしゃいますよ。それは間違いないと思います」


 私を安心させるためにそう言ってくれたのだろう。

 加賀さんに対して警戒心を持っていた私は、彼女のやわらかい笑顔で少し安堵した。


「はい。ありがとうございます」

「では、また何かありましたら、いつでもご連絡くださいね」

 そう言って、加賀さんは帰っていった。
 

 また、ふたりきりの夜が訪れる。

 今日は何を話せばいいのだろう。

 この際いろいろと問い詰めたほうがいいのかな。


 だけど、そうすることで一体何の得があるのだろう。

 空気が悪くなるだけだよね。


 それに、きっと、うまく誤魔化される。

 また、丸め込まれてしまう。


 リビングに戻るとテーブルに置いていたスマホにメッセージが来ていた。

 確認してみると、小春からだった。


『推し活ランチ会&カラオケ開催!』


 家にばかり引きこもってちゃ駄目だよね。

 メッセージを見て緊張の糸がほぐれた。