翌日、いつもどおりに遥さんは笑顔で家を出た。
私はあまり笑顔を作ることもできずに彼を見送った。
遥さんは私の嫌なことはしないし、言わない。
少しだけ、私と距離を取っているのは私が怖がるからかな。
程なくしてインターホンが鳴った。
急いで出迎えると、ほっとする笑顔がそこにあった。
「おはようございます、いろはさん」
「加賀さん!」
にこやかな表情の加賀さんを見ると思わず叫んで飛びついてしまった。
「おやおや、どうしましたか?」
「……えっと、わたし」
まさか、理由なんて言えないから、誤魔化した。
「わたし……本当に料理が下手で、どうしましょう? 呆れられてしまうかも」
加賀さんはにこにこしながら答えた。
「大丈夫ですよ。坊ちゃんはいろはさんのことがとってもお好きだから、多少のことは許してくださいますよ」
「えっ……」
加賀さんはどれくらい遥さんのことを知っているんだろう?
まさか、彼に裏表があることまで知っているだろうか。
今日、加賀さんに来てもらったのは、家のことじゃなくて遥さんのことについて聞きたかったからだ。だけど、どうやって切り出せばいいか迷う。
「いろはさん、今日も一緒にお料理しましょうか。まずは、お買い物ですね」
「はい、よろしくお願いします」
本当は料理をする気分じゃないけど、加賀さんと話していたら遥さんのことが何かわかるかもしれない。
