どきりとした。
本当に離婚がしたいという気持ちは、それほどない。
だけど、何もなかったように普通に彼と接することだってできない。
どうすればいいのか、まだわからない。
「食事、作ってくれたんだ」
遥さんがテーブルの上の料理を見て言った。
その口もとは微笑んでいて、彼はもう穏やかな顔をしていた。
「だって……奥さん、だし……」
「本当に素直で真面目な子だな。俺なら嫌になったら放棄するよ」
「やるべきことは、ちゃんとやるもん」
「知ってるよ」
彼は微笑んで言った。
「君のいいところも、家事ができないことも料理が下手なことも」
「うっ……それは」
何も言えない。
このテーブルの上に並んでいるのも失敗だらけの品々だから。
私はただ、無言で遥さんを見つめた。
すると彼はいつもの優しい表情で私に笑いかけて言った。
「それでもいいんだ。君はここにいてくれるだけでいい」
「え……」
「見返りはいらない。俺のそばにいてくれるなら、それでいい」
遥さんはまた私に近づいて、妙に切なげな表情で見下ろした。
うっかりするとすぐに抱きしめられてしまうくらいの距離で、彼は私の顔を覗き込むようにして近くではっきりと言った。
「愛しているんだ、いろは。世界でたったひとり、君だけを愛しているんだよ」
