これでは相手の思うツボだ。
冷静にならなきゃいけない。
落ち着いて。
「私はもう、あなたに流されたりしない。正直、その優しそうな態度だって、信用できない」
そう言うと、遥さんは急に真顔になった。
そして彼は冷たい口調で淡々と話す。
「で、どうするんだ? 俺の化けの皮をはがした証拠でもつかんで親に訴えるか? それで離婚しようと思っているのか?」
「そうだと、言ったら……?」
緊張のあまりドキドキしている私とは違って遥さんはとても落ち着いている。
そして、彼は余裕のある笑みを浮かべながら言った。
「離婚はしない。離婚する理由がない」
はっきりとそう言われて沸々と怒りがわいてきた。
「理由ならあるよ! あの写真だってストーカー行為の証拠になるし」
それに対して遥さんは淡々と静かに告げた。
「婚姻を継続しがたい理由は次のとおり。不貞行為、性の不一致、暴言暴行等による虐待、経済的DV、3年以上の生死不明」
すらすらとそんなことを言われて呆気にとられていると、遥さんは笑みを浮かべた。
「俺はひとつも当てはまらないけどね」
悔しい。この人に口では勝てない!
だけど……。
「私は精神的な苦痛を受けた。それでも理由にならないの?」
そう訴えると、彼は急に表情を変えた。眉間にしわを寄せて、鬱々とした顔つきで私を見据える。
その顔は卑怯だと思った。
私は彼のその表情に、酷く胸の奥が痛む。
「君は、本当に俺と離婚がしたいのか?」
