『本性現れたり、だね』

 由希ちゃんが笑いながらそんなことを言う。


「あの人、めっちゃ俺様だったよ。紳士的な人だと思ったのに。いつも優しく話しかけてくれるし、穏やかに笑ってくれるし、朝ご飯作ってくれるし、お弁当も作ってくれて、私の好きなお弁当袋を用意してくれてね。数学も得意なんだよ。遥さんが教えてくれるとすごくよく理解できるの。次のテストでは絶対いい点を取らせるからって言ってくれて……」


 今まであったことを怒涛のごとく口から発した。

 すると、由希ちゃんはふふっと笑って言った。


『うらやましいくらい愛されてるね』


 驚いて「えっ」と声を上げた。

 
 そうだ。思い出すのは楽しい記憶ばかりで、昨日の出来事は嘘みたいに思えてくる。

 嘘であればよかったのにと思う。

 いや、むしろ私が書斎に入らなければ、知らなければよかったのかもしれない。


『ちょっと様子を見る? 嫌になったら実家に帰ればいいんだから。おばさんたちに心配かけたくないなら夏休みだからとか何とでも理由は言えるしね』


 由希ちゃんの提案に私は「うん」と同意した。


『何かあったら連絡して。すぐに行くから』


 由希ちゃんの言葉に酷く安心して、私は「うん」と大きくうなずいた。