遥さんが動きを止めてじっと私を見下ろしているから、私も訴えかけるように彼を見つめた。


「遥さん、わたし……こんな“はじめて”は嫌だよ?」


 自分でも驚くほど冷静に、はっきりと伝えることができた。

 彼の今までの行動と素直にさらけ出した発言を考えればわかる。


 遥さんは私が嫌がることはしないよね?


 じっと彼の目を見ていると、彼は私から目をそらし、それからいきなりぎゅっと私に抱きついた。


「んぐっ……?」

「ちょっとこのまま……」

 彼は私を抱きしめたまま、となりにごろんと横たわった。


「何もしないから少しこのままでいさせて」


 まるで甘えるような声。

 私は彼の胸の中できつく抱きしめられて身動きが取れなくなった。

 彼の体温が直接伝わってきてドキドキする。


 だけど、これはたぶん、初めてじゃない。

 同じことが、前にもあった。

 でも、あんまり昔すぎて思い出せない。


 これからどうしよう、と思った。

 一度にあまりにも遥さんの知らない顔を頭の中に叩きつけられて私は混乱している。

 しばらくじっとしていたけど、遥さんはまったく動かなくて、私を抱きしめたままだった。


 彼の体温に包み込まれてだんだん眠くなってきた。

 目を閉じると静かに涙がこぼれ落ちた。


 知らなければ、よかった。