遥さんがまた、じりじりと近づいてきた。
私は壁に背中をぴったりくっつけたまま、ずるずると横に移動する。
「実に簡単だったよ。推しに似ているというだけで君はすんなり俺を受け入れたんだからね」
「ま、まさか、そのために整形したの?」
彼は困惑した表情でふっと吹き出した。
「まさか。そこまでしないよ。雰囲気が似ていると言われていたから、似せるのは簡単だった。好きなブランドのお菓子を与えてちょっと優しい言葉をかければ君は簡単に陥落した。素直で純粋な子だね」
遥さんが笑みを浮かべると、ぞくりと背筋が凍りつく思いがした。
今さら由希ちゃんの言葉を思い出す。
――普段優しそうな顔してるけど、自分のことしか考えてない奴。結婚してから本性出す男もいるしね――
遥さんはまさに、そういう男だったんだ。
私はまんまと罠にはまってしまったんだ。
「り、離婚して! こんな、騙すようなことして、詐欺と一緒だよ!」
遥さんはさらに私に近づいて、手を伸ばしてきた。
「騙してはいないよ。どの男も手に入れる前は優しくするんだ」
遥さんは壁に手をついて私に顔を近づける。
「でも俺は、君に冷たくしたことは一度もないけどね」
た、確かに、遥さんはいつも優しい。
だけど、それは作られたものだからじゃないの?
