「遥さん、疲れたでしょ? 先にシャワーを浴びて」
私が彼の背中を押して洗面所へと促すと、彼は冷静に笑って返した。
「鞄を置いてこないとね」
「それは私が!」
「大丈夫。書斎に用事もあるし」
「だ、だから私が!」
今、書斎に来られるとまずい!
「いろは?」
遥さんは真顔になり、淡々とした口調で言った。
「どうしたの? 様子が変だよ」
「そんなこと、ないです。ないです!」
「ふうん」
彼は冷めたような目つきになり、私の肩に触った。
「ちょっと、退いてくれる?」
「えっ……」
彼はゆっくりと私の肩を押して、自分が先に書斎へと向かった。
そのときの表情は今まで見たこともないほど冷たくて、私は心の底からぞっとした。
その場に固まったままの私に、遥さんは書斎の現状を見て、落ち着いた口調で淡々と訊いた。
「見たんだね?」
ぞくりと背筋が凍りつくような思いがした。
