「それじゃあ、いろはさん。今日はお茶をご一緒できて楽しかったですわ」

「私もとっても楽しかったです。また、よろしくお願いします」

「こちらこそ。それでは失礼しますね」

「はい、それではまた」


 パタンとドアが閉まると、急に緊張してきた。

 わたし、いけないこと、考えてる。


 私の足は彼の書斎に向いた。

 少し開いたドアにそっと手を触れて、中に入ってみた。


 入らないようにって言われて、ずっと気にしていなかったけど。

 少し、見るだけならいいよね……。


 窓側に黒のシンプルなデスクがあって、その上にはパソコンが置かれ、本や書類がたくさん積み上げられていた。

 きっとここは加賀さんも触ってはいないのだろう。

 床は丁寧に磨かれていて埃もない。


 壁際は端から端まで本棚になっていて、分厚い本がびっしりと隙間なく並んでいる。漫画とか小説なんかはぜんぜんなくて、外国語で書かれた本とか、難しそうなものばかりが並んでいる。