先生は少しのあいだ私をじっと見つめて、それからゆっくりと離れた。


「無理しないようにね。悩みがあったら僕でよければいつでも聞くからね」

「……はい。ありがとうございます」


 先生が満面の笑みになったので、少しほっとした。

 さっき、妙に棘のあるような口調だったのは気のせいだろうか。


 長門絢貴先生。

 前から知ってはいたけど、保健室に来ることがないから、今まであまり話したことはない。

 だから、別に先生と何か気まずくなるようなことはないと思うんだけど。


「いろはー、バッグ持ってきたよー」

「あ、小春」


 小春が来てくれて心底安心した。

 このまま長門先生とふたりきりでいるのは少し不安だったから。


「それでは、帰ります。ありがとうございました」

 私がぺこりとお辞儀をして挨拶をすると、長門先生はリューセイスマイルを返してくれた。


「じゃあ、気をつけてね。秋月いろはさん」


 どきりとした。

 なぜ、フルネームでわざわざ呼ぶのか、その真意は理解できないけれど、先生の笑顔の向こう側に何か影のようなものを感じた。


 これ以上関わってはいけない人だと、直感で思った。

 だからもう、保健室には来ないようにしようと思った。