Fortunate Link―ツキの守り手―



「…なっ!!」

その言葉に、急に頭に血が滾った。

――知っていたのか…。


毎日毎日帰ってくるたびに、確かめる振りして…。

その実、見抜いてたっていうわけなのか…?


「何だよ、それっ!」

「そりゃあ、あんたの顔見てりゃ分かるわよ。顔に出しすぎだもん」

ふふっと母さんは笑う。

だけど俺は全然笑えない。

胃がむかむかする。

湧き上がる激情を抑えられない。


「…ああそうだよ」

立ち上がり、吐き捨てるように云った。

「俺は全然役目を果たしちゃいない」

言いながらキリキリと胸が痛む。

自分がいかに情けないかは十も百も承知。


…だからこそ、

「知っていて、そんな事言ってくんなよ!!」

気づけば怒鳴っていた。


大音声が響いた後、

それに相反する沈黙がその場に降りた。


俺もこれ以上何かを怒鳴るつもりはなかった。


…しかし
母さんがその重苦しい沈黙を軽々と破った。


「じゃあ、やめる?」


「…は?」

思わず間の抜けた声が出てしまった。


「アカツキちゃんの守る役目、降りてもいいわよ?」


すぐにはその言葉の意味を理解できなかった。

狐にでもつままれたみたいな感じだ。


「イヤなら無理強いはしないわ。
そろそろはっきりさせなきゃと思ってたしね」


俺は何も言えず、ただ母さんの表情を呆然と見ていた。

そんな俺に向かって、母さんはさらりとこんな爆弾を投下した。


「後の心配ならいらないわ。
シュンがお役目放棄するって言うなら、代わりの人なら居るから」


「・・・・・・」

目が点。


……何ですと?

今まで散々アカツキのことを守れと言われ続けて、十数年間過ごしてきたというのに。
その為なら、色々なものだって犠牲にしてきたというのに。

それが今更どうでもいいってか?


全てが総否定されたような衝撃だった。

全てが白紙。


頭が真っ白になった後…、

脳内で、活動を停止していた休火山が突然の噴火。

どかーんと。


即ちキレた。