「…何だよ?」
向かいのソファーに座る母さんを恐る恐る上目遣いで伺いつつ訊ねた。
何だか改まった様子だ。
うちは母子家庭で親は母さんだけだ。
「あのね、シュン」
そう云って取り出してきたのは一振りの木刀。
「これを渡しておこうと思って」
「……え?」
それを両手に受け取ると、ずしりとした重みを全身に感じた。
「この扱い方なら、教えてきたから分かってるわよね?
明日からこれを使って明月ちゃんを守りなさい」
母さんの凛とした声が響いた。
「……ど、どういうことだよ」
「状況が変わったのよ」
腕を組み、母さんは説明する。
「最近不景気の波が押し寄せて来てるでしょ?それに伴って”ツキ”を狙う者も増えてくるわ」
頬を押さえて、いかにも深刻そうな顔で云う。
……ちょっと白々しい。
「――ていうのは嘘で」
「嘘なのかよ…」
母さんはこほんと咳払いした。
「今までずっと明月ちゃんの存在を周りから隠してきたけど、ついこのほど、知られてはいけない相手に明月ちゃんのことを知られてしまったの」
「……知られてはいけない相手?」
問い返すと、母さんは意味深な笑みを浮かべるだけで答えてくれなかった。
「…だからね、今までみたいなわけにはいかないの。
いくらアカツキちゃんが強いからって、それに頼っちゃ駄目よ」
ふふっと母さんは極上の腹黒い笑みを浮かべて言った。

