Fortunate Link―ツキの守り手―


アカツキは彼女流の朝の挨拶を俺に食らわせた後、何食わぬ顔で机の横を通り過ぎていった。


「ツッキー、おはよー!」

クラスメイトの女子が彼女に群がる。

「おっす」

アカツキは軽く片手を挙げ、楽しそうな笑みをこぼす。

彼女は
男子からは畏怖の眼差しで見られているものの、
女子からは姉御肌的な存在として大勢に頼られ慕われていた。

女だてらにボス的な存在感。

…恐ろしや。


俺はちらりとそんな彼女を横目で一瞬だけ確認。


その傍から、

「…シュンって、いつも月村のこと気にしてるよな」

不意打ちに、サトシがそう云ってきた。

藪から出てきたその棒は外さず俺の胸へと命中。

「何だ、いきなり」

平静を装いつつ、内心めちゃくちゃ動揺。

「だって、いつもチラチラ月村の方ばかり見てんじゃん」

「……そんな事無い」

と答えつつ、内心焦りまくり。

何という不覚か…。

一瞬だけちらっとアカツキの方に目をやってるのを目ざとくサトシは気づいていたらしい。


まぁ守るべき相手なんだから意識しているのは当たり前だ。

でもあからさまにバレるのはよろしくない。


俺は、お気楽なくせに変に鋭い友人を軽く睨みながら、気をつけようと心に思った。


しかし、この面倒くさい相手はなおもしつこく追求してきた。


「幼馴染なんだろ?
今までは気にしてなかったけど、”最近気になるアイツ”ってお年頃?」

ニヤニヤしながらサトシは訊いてくる。

今日に限って、やけにしつこい。


「んな訳ないだろ、あんな男女」


苛立たしげな口調で突っ放してやった。

あんな凶暴な女にトキめく訳ないだろ。
…馬鹿か。

何が”ツッキー”か。

キツツキみたいな名前しやがって。


怒りの鉾先が自分でもよく分からない方向に向いていく。
もう訳分からん。

何で俺がアイツのことでこんなに苛々しなくちゃいけないんだ。


第一、アイツの方は俺のことなんて何とも思っちゃいないだろうに…。

そう思うと何だか悔しくなって、もうアカツキの方を見ることはしなかった。