「――実際のところ、私もよく分からないんだ」
何を言い出すかと思えば、そう切り出した。
腕組みをした姿勢で唸る。
「その日一日の記憶が曖昧でなぜか良く覚えていない。
気づいたらお前と一緒に屋上に居た、って感じなんだ」
しかめっ面で遠くを見つめて言う。
俺は「ふぅん」と頷いた。
「そしたら突然その場に瀬川蓮が現われたんだ。
実にタイミング良くな」
気に入らない様子で言う。
ぐぐっとその眉根が寄ってた。
「んで、伸びてるお前を私ん家に連れて行った」
そこまで言うと、唐突に「以上だ」と告げて話を終わらせた。
「え?それだけ?」
「仕方ないだろ。覚えてないんだから」
アカツキはムッとした面持ちで言う。
「あの関西弁野郎は、でっち上げた事実だけを告げてさっさと去って行きやがった」
苛々と落ち着かなさそうに体を揺らしている。
腑に落ちないことが多すぎて、かなり苛立っているようだ。
「じゃあ。それが、さっきの風邪のうんたらというやつ?」
「そうだ」
「……なんでお前ん家?」
「知らん。誰かが見ておいた方がいいだろう、とかほざいてた」
投げやりに言い放つ。
しかしなんとなく話が繋がってきた。
幸か不幸か、アカツキはあの間のことをほとんど覚えていないようだ。
多分、俺の方が”本当”の事情が分かっている。
記憶の断片とアカツキの言葉を照合してみる。
要するに、瀬川は、今あるこの”現実”と俺達の”認識”との食い違いを少しでも埋めておきたかったんじゃなかろうか。
正常に機能しようとしている現実と、異常に直面した俺達との間の食い違いを…。
(………)
じっと考え込む。
だとすれば、あの男は随分とまどろっこしい事をしたんだなと思う。
どうあれ、本当のことを知っているのは俺達だけなのだ。
あいつなら虚偽をでっち上げなくたって、記憶とか意識とかいじくって全て無かったことにしたり出来たんじゃなかろうか。
なぜそれをしなかったんだろう。
そこであることをふと思い出した。
「…そういえば俺って怪我とかしてなかったか」

