学校へと駆け戻ってきた俺は、幸いにも誰にも見つからないまま校内に入り、階段を昇っていた。
教師とも生徒とも誰にも出くわしていない。
辺りはとても静か。
時間はちょうど昼休みが終わって5時間目が始まったところらしい。
そりゃ廊下に人気がないわけだ。
(……まぁ、それはいいんだけど…)
昇っていた足が止まり、階段の手すりに手をつき、寄り掛かる。
ぜぇぜぇと荒い息をつく。
体が異常なまでに重い。
あれほど軽かったのが幻だったんじゃないかと思うほどだ。
瀬川とやり合ってた最中はすっかり引いていたはずの痛みが、嘘のようにぶり返していた。
よくよく考えてみれば、痛みが無いっていうほうがおかしい。
頭や腕や腹や…。
誰かに目撃されたら「何事か」と叫ばれそうなぐらいに満身創痍だった。
体が熱く、流れる汗が止まらない。
(……くっそ…)
心の中で毒づきながら上に続く階段を見上げる。
その先が途方もなく遠い。
比喩でなく本当に気が遠くなってしまう。
息を整えようとすればするほどに乱れていく一方で。
視界がぼやけて、白く滲んで霞んだ。
ぐらりと傾きかけ…、
慌てて手すりに掴まる手に力をこめた。
まばたきを何度かして、ぼやける視界にほんの少し明瞭さを取り戻す。
(………うぁ…本気でヤバい、かも…)
切れ切れの意識の端でそう思う。
一段上がっていく動作だけできつい。
手に握る木刀を杖のように突き立て、何とか体を前へ進ませる。
それでも、
「行かないと…」
垂れてきた汗が目に入って沁みる。
「行くんだ…」
泥のように沈みそうになる意識を必死で奮い立たせる。
「行かなきゃ」
呟いて、重い脚を動かす。
ぎこちなく一歩踏み出す。
ここで倒れるわけにはいかない。
霞む目を眇めて、先を見据える。
「……待ってろよ」
混濁しそうな意識を何とか覚醒させる。
ぎりりり、と軋むほどに歯を食いしばって。
何が何でも、そこへ行くから――。

