ほぼ逃げ出すようにその場を後にする。
いちいち構ってる暇なんて無いんだ。
しかしその後ろから瀬川は律儀に声を掛けてきた。
少し力の抜けたような声で。
「…まあ。せいぜいお前らの幸運を祈っとくわ」
俺はちらっとだけ最後に、寝転がったままの奴を一瞥した。
奴はその体勢のままピクリとも動かない。
動けないのか。
おそらく打撲程度だと思うのだが…。
ちょっとやり過ぎてしまったのだろうか。
思えば力加減とかサッパリ分からなかったし。
内なる何かに従われるがままにやってしまった感が…。
けれど、罪悪感は一瞬掠めただけで、スグに消えた。
「――お前の死は無駄にはしねーよ」
それっきり、もう前を向いて駆け出す。
一顧だにせず。
ちょっと非情すぎるか。
でもこいつだって散々にやって来たし、お互い様だろ。
「――死んでへんわっ」
そんな抗議の声が後ろから上がった。
そういうところはきっちりと突っ込んでくれる。
俺は思わず少し笑った。
けれど足は止まらず、目的地へと一直線へ向かう。
脇目も振らず。
倒した相手をそこに残したままに。
走り出す。
迷わずに。
あそこを目指して――。
その頭の片隅でチラとだけ思った。
…ま。
言い返せる元気がありゃ放置しておいても大丈夫だろ。
…………多分。
☆::::第16話へ続く:::::☆

