俺はその提案を一笑に付した。
「……冗談」
笑って却下してやる。
「――こちとら諦められない理由があるんだよ」
言って、
びゅんっと刀を一振り、付いてた泥と雨滴を払い落とした。
「お前だってそうだろ。だから俺の前を立ちふさぐんだろ」
脇腹の上から押さえていた手を離す。
「…ほう」
奴は感嘆を漏らすが、表情は変えない。
「なるほどな。なかなか言うやないか」
笑ったまま。
惰性っぽい覇気のない笑み。
こいつはよくそんな笑い方をする。
その笑顔はどこか寒々しい。
たとえ大勢に囲まれていたとしても、そんな顔して笑う奴が一番寂しい。
「そう言うんなら、とことんやり合おうや。
――どちらかがぶっ倒れるまで」
その声に、俺は抱いてた感情を胸の奥に押し隠した。
思ってることを隠すのは苦手なほうだが、今は大丈夫だろう。
「……ああ。望むところだ」
正眼に構える。
心静かに、熱く猛く。
こういう時は無の境地に到るべきなんだろうが、到底そうはなれそうになかった。
無なんて、どうやっても行き着けない。
頭ん中はあいつのことでいっぱいで。
けれど。それらを打ち消したりしようなんて思わなかった。
その全てを抱えてでもいい。
その全てを背負ってでも戦う。
……心を見失わないままに。
冷酷になんてなりきれずに。
甘いって散々に笑われたっていい。
だってそれが――、
それが――”守る”っていう戦い方、だから。
「行くぜ」
声とともに瀬川は間合いに飛び込んできた。
その強い踏み込みと蹴りとともに、泥の混じった雨滴が宙に跳ね上がる。
突き出されたその一撃を、見切る。
俺は刀を横になぎ払った。

