「……なっ。……どーいうわけや」
愕然としたように俺を見る――前方に立つその男の反応だけが一瞬前の記憶と異なった。
その視線はこちらに注がれていた。
驚くのも無理はないと思う。
無様に倒されて地に臥していた筈の俺が、すっくと普通に起き上がっていたんだから。
自分でも不思議だった。
どうしてこんなに力が湧いてくるんだろう。
どこから湧いてくるんだろう。
痛みも感じない。
気分も驚くほどに落ち着いている。
息を吸うごとに、清々しい風が体の内を駆け巡っていくようだ。
ゆっくりと相手を見据える。
今なら何だって出来る気がした。
「……おいおい」
瀬川は口の端を引き攣らせて笑う。
「化けモンかよ、お前は…」
降り続く雨は弱まらない。
向き合うこの空間に、幾つも線を引いて埋め尽くす。
瀬川はじきに、その驚きを収めた。
笑いを消してこちらを見据える。
「……何かよぅ分からんけど。
でも無駄や。ここで終わらせる」
殺意を迸らせる。
「そうかよ」
俺は落ち着き払って受けて立った。
「だけど、俺も負ける訳にはいかないんだ」
何も持ってない手を握り締める。
何も持ってないが逃げるつもりなどない。
力だけは漲っていた。
「ふはははっ…」
突然、瀬川が高らかと笑い始めた。
手で顔を押さえながら、
「おもろいやないか」
愉悦と狂喜に満ちた双眸をこちらに向け、
「その決意ごとぶっ潰したる」
持ち上げられた十手の先がこちらを向く。
俺は向けられたその先を見た。
落ち着いて見ていた。
間合いのこの距離にありながら。
「ええ眼しとるな」
棒身を水平に微動だにさせないまま、瀬川は言った。
空気の流れが僅かに変わる。
来るか。
相手は動いた。
「――潰しがいがありそうやっ」
十手と一体化した腕が真っ直ぐに伸ばされる。
突き。
雨滴を切り裂いて、棒身が唸った。

