「私はずっと…お前の持つ刀の中で、お前を見守ってきた。
そしてお前の内にある強大な力を抑えてきた」
「え?」
俺は目の前の父さんをまじまじと見た。
「でも、お前はもう大丈夫だな…。
きっとその力を自分のものとして使える」
「力?」
「俊、私の手を取れ」
父さんは自分の手を差し出してきた。
俺も自分の手を出し、その手に重ねる。
父さんは力強く俺の手を握った。
「俊。
お前には敵さえも味方としてしまえる不思議な力がある。
だから、この先、何があったとしても負けるな」
「父さん」
「――私はいつだって、お前の味方だ…」
そう言った後。
一陣の風が吹いて、父さんの姿をさらっていった。
その輪郭は光の粒子となり、空気に溶けて消えた。
「父さん…?」
しかし、自分の手が何かを握ったままであることに気づいた。
それは真っ白な手だった。
まさしく白魚のような、という表現がぴったりのような。
指は細くて長くて、芸術的なまでに美しい手だった。
『お前に呼ばれたから来てやったぞ』
それは臈(ろう)たけた女性の声だった。
「……呼ぶ?」
俺は首を傾げた。
『――前に言っただろう』
その手の主が美しい声を朗々と響かせて言う。
見上げた。
姿を見ようとしたが、その部分は白くぼんやりと輝いていてよく見えなかった。
『――”おぬしは必ずわらわを呼ぶだろう”、と』
厳かに笑う。
その笑い声がまるで嫌味じゃなかった。
格が違う。
そうであるのが至極当たり前であるように、神々しい雰囲気を放っていた。
『人はよく、わらわのことを風鬼と呼ぶがの。
だが、まことの名はさにあらず』
云うや否や、サッと周りの空気の質が変わった。
この、相手の気配が濃くなっていくのが感じられた。
『――我が名は飛簾(ヒレン)』
途端に、前が目映く発光した。
白い光が一層にその強さを増す。
たまらず目を瞑った。
閉じた目蓋の裏まで白い光が射してきた。
『力を欲するなら、我が真名を呼べ』

