土が黒さを増していく。
雨を吸収しているせいじゃない。
頭から流れ出る血を吸っているせいだ。
「お前かて、どーせ何もできやしない」
ゲシッと手を蹴られる。
「もし今、明月ちゃんのもとへ行っても何もできへんに決まってる」
何かを言い返したかったが、言葉が出てこない。
声すら出ない。
意識が、目の前に広がる泥のように濁っていく。
駄目だ。
意識を手放しては駄目だ。
こんなところで倒れてる場合じゃないのに。
俺は。
俺は…
アカツキのもとへ……
「お前は誰も守れない」
鋭利な言葉が振り下ろされる。
「――だからここで散れ」
ジャリッ
泥を踏む音がした。
近づいてくる足音がかろうじて耳に届く。
それは警戒信号となって全神経に発せられた。
(……やられる)
焦った。
動け。
動け。
動かなければここで終わってしまう。
なのに。
体を動かすどころか、意識さえ消えかけだった。
朦朧としていた。
すぐにでも吹き消されてしまいそうなぐらい。
風の前の灯火より儚い。
くそ。
何て弱いんだ。
何て情けないんだ。
誰かを守るどころか自分の身一つ守れない。
何も守れないなんて。
誰も守れないなんて。
(アカツキ……)
少しだけ指が動いた。
だけどそれだけだ。
何もできない。
無力で。
ちっぽけで。
けれどこの気持ちだけは苦しいほどに滾っていて。
ただ力が欲しい。
掠れてぼやけていく視界の中、そう願った。
ほんの少しでいい。
動くだけの力が欲しい。
立ち上がるだけの力が欲しい。
力さえあれば……
求めるようにわずかに動いた手は何も掴まない。
意識は呑まれていく。
深く。
どうしようもなく。
あらがいようもなく。
真っ暗闇に
――堕ちていった。

