Fortunate Link―ツキの守り手―



宙に浮き上がり、とんぼ返り。


すぐそこに捉えた、鉄棒の上へ降り立つ。

細い足場でも難なく平衡を保つ。

バランス感覚はなかなか良い方。昔から鍛えてるし。


その高い位置から瀬川を見下ろす。

好位置に立てた。


(ここでなら…)


あれを出す事に決めた。

奥の手。

今がチャンスだ。

逆に言えば今しかない。


空中で刀を斜め上段に構える。

鉄棒を思いっきり蹴って飛び下りる。

袈裟懸けに振り下ろす。


音はしない。

音よりも速く、刀の切っ先が弧を描く。

さらに加速し、きり返す剣。

同じ軌跡をたどって弧を描く。

無音の剣。

相手には構えているようにしか見えない。

だから構え太刀。


――弧月閃


目映いその真空の三日月の光跡が音も立てずに相手を襲った。



雨粒を吹き飛ばして、土煙が舞う。


地面に降り立ったと同時に、空を切り裂く鋭い音がした。

バシュッッ!!

技を放ったより遅くに響く、衝撃波の音。


その速さゆえにどんな奴だろうが回避は不可能。

目で捉えきる事はできない速度だから。


肩で荒く息をする。

今、やれるだけの全力は振り絞った。

煙が少しずつ晴れていく向こうを見る。


さすがに奴とはいえ、もう動けないはず。

終わらせる事は出来たはず。

そう自負していた。


だから……


「……おせぇよ」

背後から、その声がしたときには飛び上がりそうなぐらいに驚いた。

(……ありえない)

驚愕と共に、後ろを振り向く。


振り返るのがやっとだった。

動けない。

ただ目を見開くばかり。


その目に、高々と大上段から振りかぶられる十手が映った。

鈍く重く光る棒身が――、



空を斬る音を聞く、とほぼ同じに…



目の奥で火花が散った。

視界が何重にもブレた。

脳天が揺らぐのを感じた。



全身からあっという間に力が抜けていく。

握っていた刀が、するりと手を抜けていく。


あとは何も感じない。

全てがどこか遠くに。

どこともなく沈んでいく体を他人事のように思った。