「…何のこと言ってんだ」
掛かる重圧にガクガクと震える腕を必死に押さえながら訊く。
瀬川は不敵に嘲笑う。
「本気のを出せって言ってんだよ」
「……は?……意味分かんなね…」
今でも全力ギリギリだ。
「構え太刀のことや」
相手は含み笑いを浮かべた。
「…何でもその太刀筋が三日月みたいに綺麗だって言うやん。俺も見てみたい」
「………知るかよ」
そう言いながら、奴が一体何のことを指し示しているのかが分かった。
どういうわけかこの男は俺の隠し持ってる得意技を知ってるらしい。
「しらばっくれんなよ。このままやとお前負けるで」
余計なお世話だ。
と言いたいところだが、実際にそうなんだから何も言えない。
この危なげな状態はあと数秒と持たないかもしれない。
そうなれば奴の言うとおり確実に負ける。
かと言って、こいつの言いなりなんかにはなりたくなかった。
「……ここでやるのは無理だ」
乳酸が溜まる一方の腕を気合いで鼓舞しながら言葉を紡ぐ。
「あれは手加減が難しい」
そういうことにしておく。
けど実際は、手加減なんてする必要なかった。
手首を中心に痛みで痺れて上手く動かせない。
今の状態なら手加減などせずとも到底本気のなんて出せない。
どう頑張っても威力は本来のそれより半減するだろう。
「手加減なんてせんでええ」
そのことを知ってか知らずか、この男は挑発するように言ってくる。
「本気のを出せ。歓迎するで」
と同時に、ふっと圧し掛かっていた重圧が緩まった。
力を緩めたらしい。
誘いのつもりか。
どうであれ、この窮地からは脱するべきだ。
そう判断して、素早く行動に移す。
体の重心をずらし、抜け出るように足を動かす。
下から、相手の鳩尾目掛けて思いっきり蹴り上げる。
それを当然に予期していた相手は、軽々と避けて後方へさがった。
跳ね上げるように体を起こし、片膝をついて立ち上がる。
疲労の所為か、体が思うように動かない。
手に鉛が付いてるのかと思うぐらい腕が異常に重かった。

