俺は吹き抜ける風の音を聞きながら、独白し続けるそいつを眺め続けていた。
眺め続けるだけ。
何かを思ったわけじゃない。
ただ、そいつの目が色を映し出さない理由が、少し分かった気がした。それだけ。
「――お前は明月ちゃんを守るんやろ」
瀬川は笑みを消して、迫るようにこちらを見てきた。
変わらず、色の無い目がそこにあった。
「だったら……。立ちはだかるどんなものを踏み潰してでも前に進むべきや。
どんなものを排除しても守り抜くべきや」
十手を再び、持ち上げる。
持ち上げたそれに、禍々しい殺気が宿らせて。
「それやのに…。お前にはその覚悟が無い…」
その先を俺の方に真っ直ぐに差し向ける。
俺は防御反射的に一歩退きそうになったのをグッとこらえた。
「甘い。甘すぎる。甘っちょろすぎて反吐が出る」
反対に、奴はジリッと接近してきた。
肌に当たる風は生ぬるいのに、冷え冷えとした何かが迫ってくるようだった。
「お前は…、すぐ近くに、すぐ傍に、すぐ隣に、守るべき相手がいるっていうのに…。なんでそのザマなんや。」
その暗い目の奥にある瞳は冷たく凍てついていた。
底なしの闇がそこにあるみたいだった。
どこまでも真っ暗闇だった。
「……そーいうのを目の前で見せられるとな、どうしようもなく壊したくなるねん」
暗闇のままに凄惨に嗤った。
「たまらなく壊したくなるねん。ははははっ」
高らかと嗤う。
それに呼応するように、風がざわつき、にわかに吹き荒れた。
俺は巡る血が冷えていくのを感じながら固まったまま、狂笑するそいつを見る。
視線と視線が交わりあう。
その強い視線に刺されて、喉があっという間に渇いていく。
「だから、俺はお前の前に立ちはだかる」
瀬川は流れるような動きで十手を振り上げた。
「――そんな甘っちょろい覚悟は、今ここで俺が叩き潰してやる」
同時にダンッと地を蹴る音。
ハッと息を呑む一瞬に、鈍い輝きを放つ光跡がすぐ眼前で閃いた。

