……そいつは見たことの無いような表情をしていた。
とにかく変な顔だった。
懐かしい何かを思うように頬を優しく緩めて。
悲しい何かをこらえるように目を少し伏せて。
「明月ちゃんとはまた違うタイプなんやけどな。
めちゃくちゃ生意気な奴で。小さいくせにいつも上から目線で」
一人、誰に対してでもなく。
独り言のように話す。
「我が侭やったんやな。お嬢様やったし」
遠い場所を見て。
俺の全く知らない場所を見て。
「俺は彼女の護衛役やった」
呟き、すっとその顔を上げ、空を見上げていた。
今にも一雨降り出しそうな曇天が空を覆っていた。
「そやけど、守りきれへんかった」
見上げるその瞳は、頭上に広がる雲のように、みるみるうちに曇った。
「ほんの一瞬離れた間に、殺されてしもた。
なんで一人で行かせてしまったのか。俺は今も後悔の繰り返しの中におる」
曇る目はさらに暗さを増し、色を失う。
その目が不意に俺のほうに向けられた。
「なぁ」と呼びかけられる。
「――目的を失った気持ちはどこにぶつければええと思う?」
俺は答えられなかった。
瀬川は笑った。
狂気の孕んだ笑みだった。
「俺はぶつける場所を見つけた。
――あいつを奪った者全てに復讐を。綺麗残らず消し去ってやろうって」
じとっと湿った風が狂ったような音を立てて吹き抜けていく。
「だからみーんな消した。無我夢中で消した。この手がどんなに汚れようと構わへんかった…」
瀬川は自分の両手を見下ろして、哂った。
「それやのに。なんでこんなに…気持ちは乾く一方なんやろな」

