俺は息を呑んだまま相手を見つめた。
その場から動けないまま立ち尽くしていた。
前方からビンビンと感じる殺気に、本能的に体が緊張する。
手に持つ長い袋をギュッと握り締めていた。
殺気に当てられた本能がそれを抜き放て、と促す。
(………だけど)
それを押しとどめようとする理性があった。
どういうわけか気持ちはそちらに動かない。
戦う気にはなれなかった。
相手を”敵”として認識できない自分がいた。
(………なぜ?)
自分でも訳が分からず自問する。
対面に立つ相手は、今にも襲い掛からんばかりの気迫を放っているというのに。
「何や?ヤル気が出ぇへんのか?」
いち早くそれを察してきた瀬川が訊いてきた。
俺は無言を通した。
表情をなるべく出さないようにこらえて…。
相手はそれを見やって、奇妙な形に口元を歪めた。
放つ殺気を少しだけ緩めて。
「……お前は優しいな」
笑っているふうにも、そうでないふうにも見える表情で。
「俺なんかさっさと遠慮なくぶちのめせばええのに。
……そうはせぇへんのやな」
構えを解き、武器を持つ腕をダラリと下げた。
一瞬前までの緊張を嘘のように消す。
戦闘の姿勢もすっかり崩して。
俺はその態度を見て。
何かがプチンと切れて、無言を破った。
「…お前こそ何なんだよ?」
胸の中がもやもやする…。
「居場所を教えて。なのに邪魔をして…。
やってることの意味が分かんねー」
苛々と睨む。
相手は目をうっすら細めた。
遠くを見るような、すぐ近くを見るような、あるいはどこも見ていないような、そんな目つきだった。
ただ、その目は少し憂いを帯びているふうに見えた。
「――俺にもな…。
お前にとっての明月ちゃんみたいに…守らなあかん相手がおったんや」

