詰問する俺の前で、瀬川は悠々と梯子から腰を上げた。
「お前が行ってどうなることでもない、と思ったから」
静かに顔を上げる。
「……それに。
今は――、スイが、”歪み”がこれ以上に周囲を浸食せえへんように食い止めとるからなぁ。
その邪魔をしたくなかったし」
息を整えるように溜息をつき、真正面から俺を見てきた。
「あとも一つ、理由はある」
雨の予感を孕んだ湿った匂いが鼻先を掠めすぎていく。
「ここなら全然人もおらんし、思う存分やりあえるから」
「…………何だと?」
怪訝に訊く俺を見て、相手は笑みを浮かべた。
先ほどまでと全く違う種類の笑みを。
「アホやな。俺が親切に明月ちゃんの居場所を教えて『いってらっしゃい』とでも言うと思たか?」
そう言うと、奴はおもむろに懐に手を伸ばした。
制服の内から、するすると長い棒状のものが出てくる。
奇妙な形のものが姿を現す。
長い棒のような手元に鈎のような形がくっついたもの。
(……十手?!)
到底隠し持てなさそうな大きさの、その武器を慣れた様子で構える相手を呆然と見つめた。
「そういえば初めて見せるな…。これが俺の相棒や」
にやり、と暗く笑う。
その目と目が合って、……ゾクリと戦慄が背筋を走った。
相手は普段の皮を破って、その内側に秘めた本性を見せようとしていた。
正眼に構える十手の表面が威嚇するような鈍い輝きを放っていた。
身構えながらも、慄きに震える胸を抑えきれない…。
「――守谷俊」
その鋭い声に全身の筋が一斉に強張った。
名を呼ばれただけなのに、刃先を突きつけられたような冷たさを感じる。
氷のような殺気が容赦なく射抜いてくる。
「明月ちゃんのもとへ行きたいなら…。
――この場で俺を倒してから行け」

