瀬川はフと口の両端を歪めた。
その指でクルリと枝を回して。
「確かにそうやな。
でも世の中にあるもんって大抵そんなもんやと思わんか。矛盾だらけや。
……そやけど。
流れに逆らうことが無いから、そこに存在することが出来る」
――流れに逆らえば、消えてしまう。
瀬川は乾いた表情のまま枝をポイと投げ捨てた。
「だから矛盾はしてるけど、世界の流れには…理にはかなってるんやな」
静かな言葉がその場に落ちる。
その言葉をさらっていくように。
誰も居ない公園の上を少し強い風が吹き抜けていった。
「ほんまは10年前、明月ちゃんが殺されるはずやった。
でも明月ちゃんが助けてほしいと強く願ったから、現実が変わった。
現実を歪めたせいで、明月ちゃんの母さんがその代償を受けた」
「――代償」
重く響いたその言葉を反芻する。
漠然と。不吉な予感を孕んで。
その二語の意味する先を――…、
「代償。すなわち死」
梯子に居座る男は明確に言葉にした。
「本来、明月ちゃんを襲う筈だったものを、現実を、捻じ曲げたからや」
直下に降り注いでいた日差しが弱まる。
流れの速い雲に覆われて。
「普通にツキを使う分にはそれほど影響は無いんやけどな。そういうのは時空間の自浄作用とかでどうにか修正可能な範囲やし。
そやけど…。強い想いや願いによってツキを行使すれば……時に全てを狂わせてしまう」
どこからともなく飛んできたお菓子の空袋が足元を転がりすぎていく。
風は強くなる一方だ。
「特に明月ちゃんはその力を強く持っとるようや。事象に干渉する力が強すぎる。
それも偏った一方向において」
瀬川は手を組んで、顔を上げ、まっすぐに俺のほうを見つめてきた。
その視線に少し、気圧されそうになった。
「……それがお前や」
ざわり、と首筋を生ぬるい風が撫でていった。

