「ほんまやて。嘘みたいな話やけどほんまなんや。
あの地点だけは現実が変わった。
それまで順調に回ってた歯車の歯が突然に一本だけ差し替えられた。噛み合わなくなった歯車は途端に狂いだす。それ以上は進まない。軋みながら進もうとして行ったり戻ったりを繰り返す」
抽象的な言葉を並び立てる。
でも何となく言わんとしてることは不思議と理解できた。
「……それが今の状況だと?」
「察しがええみたいやな。
あの時刻から時間は進まなくなった。時間が追いつけば、またそれ以前のいつかに戻る。
でも実際変わったんはあの時間地点のことだけ。それまでの過去は今まで通り」
そう言って俺の手を指差した。
「右手首、ちょいと見てみ」
言われたとおり、自分の手首を見た。
包帯が巻かれている。
「刺された傷は無いくせに、それ以前の怪我は治ってへん」
俺はぼんやりとそれを見ながら、思い出していた。
今なら、ちゃんと、アカツキと一緒に廻った学祭のことも思い出せた。
「過去の事実自体は変わってへんけど、認識だけは塗り替えられた。
”明月ちゃんは元々存在しなかった”っていう認識に」
俺はおもむろに顔を上げた。
「みんな、綺麗に忘れとるやろ?明月ちゃんのこと?」
瀬川は微かにだけ笑みを浮かべて言った。
「お前も同じように忘れとる筈やった。
でもお前の場合『もしかして』ってコトが有り得ると思って、念の為の暗示も掛けておいた。明月ちゃんのことを絶対に忘れるように。
……それやのにお前はこんなに早く自力で思い出した」
言って奴は肩をすくめ、おどけた調子で「明月ちゃんを想う執念かな」と呟いた。

