ザー……。
蛇口をいっぱいに捻り、水の流れる音が響かせる。
その音に紛れて。
みっともなく、つかえているもの全てをぶちまけた。
胃の中の物全てを出しつくして空っぽにした。
頭の芯から響く酷い痛みと、喉を焼く胃液の酸っぱさに涙が出た。
鼻水もヨダレもダラダラと出た。
「げほっ…は……はぁ…はぁ…」
全身の体温が何度か下がった気がした。
流れる汗が冷たい。
同時に、妙に頭が冴え渡ってくる。
曖昧だった何かがハッキリとして見えてくる。
「……ぁ…」
乱れた息の下から掠れた声が絞り出た。
浮かび上がってきたものを、忘れないように、とどめおくように声にする。
うっすらと見えてきた線を必死でなぞるように。
「……ぁ…あ…か…」
口がぎこちなく動く。
込み上げてくる、その懐かしい何かを呼ぼうと。
「……あ……か…っ…つ…き…」
ひとつの名前となって。
ぼやけていたものが、やがて象を結ぶ。
ピタリ、と合致してはめ込まれる。
見慣れたあの顔が。
……そうだ。
何で忘れてしまっていたんだろう。
「……あかつき」
酸っぱさが引いて、口の中がしょっぱい。
大きく深く空いた穴に相当するピースがようやく見つかった…。
いつも当たり前に隣に居たはずの……
「……アカツキ」
思い出して、一気に堰をきったように溢れ返る。
意識の全てが埋め尽くされる。
全てが…
「――やっぱり気づいてしもたか」
ハッと息を呑み、顔を上げる。
鏡の中。
青白い顔をした自分のその斜め後ろ。
壁にもたれて、こちらを見ている男が背後に映りこんでいた。
「瀬川…」
……いつの間に。
腕組みをしたそいつが、そこに立っていた。

