「…なぁ」
そこでふと思い立ち、訊いてみることにした。
「俺と白石さんっていつから付き合ってるんだっけ」
「…そりゃあ。ちょいと一月ほど前から、じゃねぇの?」
と答えてから、サトシはあからさまに顔をしかめた。
「っておいおい。お前のことだろーが。なんで俺に訊くんだ?」
「……んー。ちょっと最近忘れっぽくて」
「……忘れっぽいって。んなこと忘れるもんなのか?」
呆れ半分、驚き半分で、訊いてくる。
俺はぼんやりと視線を外にやったまま。
ゆったり流れる雲を目で追いかける。
「…うん。どうやらいろいろと忘れてるっぽい」
千切れていく雲を見つけて呟く。
「…はぁ。何じゃそりゃ。記憶障害か?」
「どうだかな」
呟いて視線を教室内へ転じた。
次々とクラスメイトが入ってきて、挨拶が飛び交い、騒々しい。
いつもと同じ、見慣れた朝の風景。
何一つおかしな点などない。
……なのに。
そのごくありふれた日常の中で。
どうしても、そこに大きな空白があるように思えて仕方が無い。
誰も気づかない。
だけど俺だけは感じている。
大きな大きな、ぽっかり空いた穴を。
「うーん。なぁんか忘れてるのに思い出せねー」
頭をガシガシと掻いて呻いた。
とても大事な致命的な何かを忘れてる…。
そう思うのに思い出せない。
思い出せないことが酷く気持ち悪い…。
「なに?忘れもん?」
サトシが律儀に訊いてくる。
「数学の課題を忘れたとか?まぁアレは諦めろって。当てられさえしなきゃ御の字」
ははは、と笑って、気楽に言ってくる。
その笑いに流されそうになり、けれどこの胸にすくう違和感に引っかかって流されなかった。

