「……えと。何すか?」
頭を掻きながら訊ねる。
ベンチのある庇の下。
先ほど俺が座っていたベンチと全く一緒の格好だが、こちらは女子のエリア。
プールは一つしか無いので、4レーンずつちょうど真ん中で縦に真っ二つに、男子、女子と分かれていた。
「ちょっとすまないんだが」
女子を担当しているその体育教師が申し訳なさそうに言ってくる。
見た目爽やかだが、教育実習生っぽい、いかにも新米そうな頼り無さそうなその教師は、何やらおどおどと落ち着かない様子だった。
その宙を揺れ動く目がちらりとベンチに居座る女子生徒へと向けられる。
「白石を保健室に連れて行ってやってくれないか」
「……はい?」
怪訝な俺の返事にさらにたじろぐように教師は視線を揺らす。
「熱があるらしくてフラフラなんだが、保健委員が連れて行こうとしても頑として動かないんだ。守谷じゃないと駄目だと言い張って…」
「……はぁ」
その教師のあまりのふがいなさに半ば呆れつつ、「そんな事を言われましても…」
「あーっ!シュン!!」
その傍から弾けるような声が聞こえた。
見るまでも無い。
この声の主はあの人しかいない。
「うれしーっシュン!」
ふにゃふにゃ笑いながら言う白石さん。
確かに熱があるみたいで頬が赤い。
声は若干鼻にかかってこもっている感じだが、元気はある。
今日は珍しくも眼鏡をかけていた。
彼女は満面の笑みを俺に向け、
「保健室連れてってー」
座ったまま両腕を広げて無邪気に言ってくる。
「抱っこしてーおんぶしてー連れてってー」
親にねだる子供のように甘えてくる。
風邪というより何か酔っ払いっぽい。
でもどことなく体がフラフラ揺れているところを見るからに、相当熱があるような感じだ。

