「手放すつもりなどなかった」
紅羽は悔しげに表情を歪め、答えた。
「俊を生んですぐ、私は風魔の者たちに捕らえられてしまったから…」
「………」
だがしばらくして冴月は鎖を握る力を強めた。
紅羽が苦しげに呻くのも構わずに。
「あなたに何があったとしても、俊を手放すべきではなかった。
子は決して、自分から親の手を離さない。その手を離すのは、いつも親の方からだ」
そして、その瞳を少し、伏せる。
「俊って名前をあの子につけたのは、あなたなんでしょう?」
「……さえ…づ…き…」
グタッと傾ぐの紅羽の体を、冴月は後ろから抱きとめる。
「今日、あなたの本当の姿を久々に見て、気付かされた。俊はあなたに本当によく似ている」
「わたしに…?」
ぼんやりと呟く紅羽。
「私は、いずれ、あの子にあなたが本当の母親であることを言いたいと思っている。
だから――」
冴月は紅羽の耳元に告げた。
「どうかその時まで、あの子を裏切らないでください」
「………」
紅羽は動かなかった。
その目はぼんやりと遠くを見ていた。
冴月もスッと視線を上方へ向けた。
瞳の奥に、強い想い、願い、を込めて、
何かを重ね合わせるように、
その先に、居る人物を想って――、
「シュン。あなたは…」
――どうか、大事なものを、その手で、守り抜いて…。
「……だから」
不意に、その瞳は不安げに揺れた。
「……こんなところで屈しては駄目よ」

