ピンの外れる音がして数秒…。
ボワワワッッッと辺りに白い煙が立ち昇った。
あっという間に階段一帯に充満し、埋め尽くす。
発煙弾で煙幕を張ったのだ。
「…………くっっ」
冴月は何とか視界をふさぐ煙をかいくぐり、その一帯から抜け出す。
そこへ。
見計らったように紅羽が飛び出し、突っ込んできた。
それでも冴月は冷静だった。
落ち着いて状況を見て取り、攻撃に備えるべく体を動かす…
が、その表情が突然、驚愕に彩られた。
何故なら、紅羽だと思って目にしたその顔が――…、
「……ッッ!!!」
どこからどう見ても、”俊”のものだった。
冴月はたじろき、動作が一瞬、遅れる。
しかし、その眼前の”俊”の形をした者の口が凶悪に歪められた。
「だから甘いというんだ――」
紅羽の声で嘲笑が発せられる。
この一瞬の変化(へんげ)が彼女が百面相といわれる所以。
俊の姿をした紅羽は、握る鎖を強くしならせ、至近でその鉄の球を冴月に向かって打ちつけた。
ガィィィ――ンン!!!
耳を劈くほどの音が響き渡った。
冴月は何とかギリギリ分銅をかわし、その鎖を刀身で受け止め、渾身の力で弾き返す。
その反動を利用して、跳ぶように後退し、再び煙の中に身を隠した。
だが一方。
紅羽には、冴月の身を隠したその場所が分かっていた。
何故なら――。
先ほどの攻防で既に、冴月の刀にしっかり鎖が巻きつき、絡まっていたから。
本人はそれに気づく余裕さえ無かったのだろう。
よって、この、鎖の伝う先を見れば、おのずと……。
紅羽は鎖の伸びる先に辿るように近づいた。
その向こう。わずかに煙の薄らいだ部分に黒い影が見え隠れしている。
「――そこか」
紅羽は素早く目標をつけ、鋭く鎌を投げつけた。
ドシュッッッ
生々しく刺さる音が響く。
紅羽は満足げに口元だけで笑んだ。
すでに、その姿は紅羽自身の姿なりに戻っていた。

