しかし、それを聞いても雅は表情を変えなかった。
「……あら」
彼女は否定せず、微笑んだ。
「どこでそんなことを知ったのかしら」
さらりと言う雅に、蓮はしばらくしてから、ぽつりと呟いた。
「…あんた、やっぱり…俺のことを知らんのやな」
「へぇ?
もしかして、過去にどこかで会ってる?」
そう笑いながら問いかける雅に対し、蓮は笑わない。
「…風魔の百面相」
雅のことをそう呼んでから、
「あんたが俺のこと知らんくても、俺はあんたのことをよう知ってるで」
そう前置きし、蓮は一気に語り始めた。
「かつて、とある山奥に、忍び等この世のはぐれ者が集う隠れ里、風魔(フウマ)という場所があった。
風魔の一族のうち一部の力の強い者達は、風鬼(フウキ)というアヤカシを里の奥に封印していた。
しかし封印と引き替えに彼らは子孫を残す力を失った。
そして、あんたもそのうちの一人やった」
「………」
雅は何も言わずじっと聞いているのみだった。
「あんたは水神を守護する一族、雨宮家の長のもとに嫁いだ。
彼も水龍の子を封印している業ゆえに子を為せなかった。
つまり二人の婚姻はお互いを傷つけないもの――であるはずだった。
けれどあんたはやっぱり女性だ。
子供を作ることは諦めていても、常にその願望は心の内に秘めていたんやろう。
ある日、あんたは風鬼の言葉に耳を傾けてしまった。
風鬼の封印を解き、風鬼の子供をその体に宿してしまった――」
そこで言葉を切り、蓮は雅のほうを見据えてこう言った。
「その子供がシュン、なんやろ」

