「じゃあ、やるか」
レフェリー役を買って出たサトシが言う。
俺は相手の手を強く握りこんだ。恨みと憎しみを込めて。
「おっ、やる気満々やな」
相手は不敵に笑う。
こうなったらもうやるしかない。
しかもこいつのせいでこんな事をやるハメになったかと思うと…、
「やるからには瞬殺してやろうかなって思ってね」
笑みを浮かべつつ言ってやる。
多分、目は笑えてない。
握りこんだ相手の手は俺よりでかい。
身長も俺より高いもんな。
だが、こちとら基礎体力には自信がある。
腕力と脚力は特に。
普段の学校で発揮することなんて無いけど、こいつ相手なら全力出してやってもいい。
なんて思いながら。
「レディ」
サトシは握り合った拳に手を添えた。
「ゴー!!」
――開始。
すぐさま勝負をつけてやろうと思っていた。
先手必勝法。
相手より先に瞬発力を爆発させればいい。
だが。
その最初の一瞬――。
不意な状況に躊躇ってしまった。
内心で舌打ちする。
相手が手首を返し、わざと不安定な体勢を取ってきたのだ。
(……くそっ)
憎憎しげに拳を睨む。
このまま一気に本気を出せば、奴の上腕部をへし折ってしまう可能性がある。
ムカツク相手とはいえ、さすがに怪我まで負わせるつもりはない。
(……どうすべきか)
一発で仕留めないとなると力加減が難しい。
(持久戦に持ち込むつもりか)
こちらもじりじりと圧力を加えていくしかない。
苛立ちを注ぐように、指に力を込める。
「おいおい。握りつぶすつもりか、ぐぬぬぬ」
相手は軽く笑いながら、けれどこちらに合わせるように握り返してくる。
「全然っ!ふぬぬぬ」
俺も意地になりつつ言い返す。
誰か握力100の力とかくれ。今だけ。
みしみしと指の関節が音を立てるが、どうともならない。
相手も何も仕掛けてこない。
本当に本気で持久戦になりそうだ。
(…ってーか、ホームルーム始まっちまうよ)
「このままやと休み時間終わってしまうな」
同じことを思ったらしい関西弁は言った。

