「えっ?何?勝負?」
「誰が?誰と?」
「腕相撲だってよ」
ざわざわとクラス中がざわめき立つ。
俺の意思云々は綺麗さっぱり無視され、勝手に勝負の舞台ができあがりつつあった。
一つの机を中心に円形に人だかりを成している。
俺は、机を挟んで対面に立つそいつを恨みを込めて睨んだ。
間違いなく、この関西弁馬鹿がデカイ声で触れまわったせいだ。
「…何や?勝負放棄するか?」
奴は笑いながらそんなことを訊いてくる。
これだけ人を集めといて今更。
「もう遅いだろ、これ」
俺は諦めきった口調で答える。
「ならやるしかないな」
言って、奴は机の上に手を差し出そうとして、
「そういや、お前。右手怪我しとるんやったな」
こちらの右手首に目をやり、気遣うように言ってくる。
そういえば、学園祭の時、深海翠とかいう男と戦った際、右手首を捻挫したのだった。
「だったら左でやるか」
左腕を差し出してくる。
俺は訝しげにそれをじぃっと見た。
「あー。実は左利きでした、なんてことは無いから」
こちらの視線の理由に気づいたらしいそいつはニヤケながら言う。
「ふんっ」
俺は鼻を鳴らしつつ、やっと腕を机に乗せ、構える。
この男相手にはこれぐらい警戒してちょうどいいぐらいだ。油断禁物。
そこへ「瀬川君頑張ってー」なんていう女子の声援が後ろから掛かった。
ただの腕相撲ごときに、なぜかクラス中が湧きに湧いてる。
(……そんなに盛り上がらなくていいから)
妙なプレッシャーを感じつつ思う。
しかも周りのこの雰囲気から察するに、大多数が瀬川の方を応援してる感じだ。特に女子。
悲しくは無いが、孤立してる気分を味わう。
何だかホームな筈なのに完全にアウェーな気分。
…なんて思ってたけど、
「シュン。絶対勝てよ。勝たてねーとマジ殺すから」
殺伐とした声援をくれる味方が一人だけいた。

