「よっ」
声を掛けると、
白石さんは本から目を離し、見上げてきた。
よく見てみると、本のタイトルは『検証・徳川埋蔵金の在り処』
――…何っちゅう本を読んでんだ。
「どうしたんですか?」
白石さんはきょとんとした顔で見上げてきた。
そのあまりにナチュラルな反応に戸惑ってしまった。
「…いや、その」
だけど、退くわけにはいかない。
事の真相を確かめるべく、こうしてわざわざ休み時間に彼女のクラスに訪れたわけだから。
「昨日白石さんが言ってたことって本当なのかなって思って」
すると白石さんはまじっと俺の顔を見てきた。
もし本当だったのであれば、彼女は怒るだろう。
そうだったとしたら、とりあえずサトシの馬鹿を締め上げなければならない。
けれど、白石さんは怒らなかった。
代わりに、
「どの事を言ってるんです?」
変わらない調子で尋ねてきた。
「…えと。妹さんの高校の入学金がどうのって話」
「ああ、あれね」
彼女はフフっと笑った。
「勿論嘘よ」
さらりと答えた。
あまりに普通に答えられたので、一瞬その意味を理解できなかった。
いや、理解できた後もすぐに思考が停止してしまった。
半分廃人のような状態で、ほけっと目の前の女子生徒を眺めていた。
衝撃がデカすぎた。
「訳が分からないって顔ね。ふふふ…
貴方みたいな純情な人に久々に出会ったわ。
おかげで面白かったけど」
その余裕たっぷりな態度は、昨日とはまるで別人。
『女は外見と違うもんなんだよ』と言ったサトシのセリフが妙なリアルをもって頭の中に響いた。
これからはあいつのことを大僧正と呼ぼうかな。心の中で。
「…そうね。
とりあえず今から私の家に来ない?」
白石さんはおもむろに立ち上がった。
読んでいた本を鞄の中にしまう。
「…え?
今から授業…」
俺は生きている脳細胞を何とか動かして、そう云った。
けれど白石さんは鞄を持って、
「サボるわよ」
俺の腕を掴んで、教室の扉へと向かった。
何て潔いんだ――と半分壊れた頭で感心した。

