「結界を張り、うまく月村明月だけを引き込んだつもりが…暫くしてお前までもが引き込まれるようにやって来た。これは思っていた以上に由々しき事態だ」
何かを考え込むように眉間にしわを寄せる。
相変わらずマイペースに喋っているようだ。こちらの理解などどうでもいいのだろう。
言っている事がよく分からないが、こいつがアカツキを連れさらったということに間違いは無さそうだ。
「何なんだよ、お前は」
警戒心をあらわに相手を睨む。
決して油断ならない相手。警戒してさらに警戒した方がいい相手。そう判断した。
男はその恐ろしく整った顔で淡々と、
「俺の名は深海翆。」
無駄の無い口調で名乗った。
一定の距離を置いて相手を近づかせない。そんな口ぶりだ。
名前は一度聞いている。…だが。
「……物祓い師?」
何だそれは?と思った。聞いた事も無い。
すると男はおもむろに手を掲げ上げた。くるりとその手を反す。
シャラン…と金属の擦れ合う音が響いた。
手品のようにどこからともなく長い棒が現れ、その手の内に握られていた。
錫杖だった。
それを回転させ、ピタリとその先端を俺のほうに向ける。
「――物祓い師。この世に巣くう闇を祓い、滅する者だ」
どこまでも真剣な表情と目で、揺るぎない口調でそいつは言い切った。
まずは「何言ってんだこいつは?」と思った。
――闇を祓い、滅する者…?!
普通の奴が普通にそう言ったなら、全く取り合わなかったに違いない。
しかしそいつは違った。
発する言葉一つ一つが何だか重く感じられるのだ。態度が真剣すぎる。並々ならぬ自信さえ伺える。
加えて頭が悪そうな奴でもない。理知的な光をその双眸に宿している。
――どう受け取ればいいのだろう。これは…。
相手を推し量るべく、じっと見つめる。
「守谷俊」
相手は錫杖の先を俺のほうに向けたまま呼び掛けてきた。
鋭い視線を俺に浴びせてくる。
それに対し、こちらも身構える。
しかし次に飛び出てきたのは信じられない言葉だった。
「――お前は月村明月のことを本気で愛しているのか?」

