「……あ、アカツキ」

何かにかき立てられるように、その名前を呼んでいた。


「…………何だ?」


真っ直ぐに見つめ返してくるその瞳。

凄みは無い。

混じり気なく光を反射している。

その真っ直ぐさが、素直に綺麗だと思った。


止め処なくそう思う。

気持ちが溢れてしまいそうなぐらいに。

自分がどうにかなってしまいそうなぐらいに。


その全てを守りたい――と思わせるほどの。

これは与えられた役割ではなく、自分の意思なんだと自覚する。

守る。

アカツキを守り続ける。

守るためなら…俺は……、


「………っ」


不意に視界が歪む。

相反する後ろめたさが胸を貫いた。


『――アカツキちゃんを守る。それを阻むものは倒す。その為なら何だってする』


瀬川に言われた言葉が胸を突く。

視線を下げ、自分の手を見つめた。

茫然と……。



守る為なら――、

――何だってしてしまえる…。


俺は……、

この目的のために自分を見失うってしまう日が来るのだろうか…。




「…どうしたんだ?シュン」

その声に顔を上げると、すぐ傍のアカツキの顔が鮮明に目に映った。


ふと気づけば辺りに光が戻っていた。

雲に翳ったのは一瞬だったらしい。


怪訝そうに顔を顰めるアカツキに向かって、俺は首を振った。


「……いや。……何でもない」


何を考えすぎているんだろう、俺は…。

どうかしてる…。


「――腹減りすぎて死にそうだなぁって」

暗い予感を掻き消すべく、無理に笑いながらどうでもいいことを言った。


「てめぇはいつもそうだろ」

呆れ顔でアカツキは言う。


自覚しだすと、ますます空腹を感じた。

「……ご飯ものとかってないかな?」

「あるわけねぇだろ…」

呆れ声でアカツキは言う。



悪い予感は全て気のせいだと信じていたい。

何でもない振りをして、まだこの一瞬一瞬の幸せを噛み締めていたい…。

そんな事を思いながら――。



握られたその手を離さず歩き出した。






☆::::第13話へ続く:::::☆